カントク直伝カート講座

 皆さんこんにちは。今回は「番外編」です。

以前、チーム内で起きた感動的な出来事をご紹介したいと思います。
「カートって走るだけじゃないんだなぁ〜。」/それでは、はじまり!はじまり!

 2000年12月、カート歴8年になるチーム員の片山和則さん(当時30歳)は、翌年6月から始まる結婚生活に備え、長年愛し続けたレーシングカートの世界から一線を退こうと、断腸の思いでカート一式を処分した。

それは、これから始まる新生活に対する片山さんなりの下準備であり、結婚相手、「千秋さん」への気遣いでもあったのだろう。
チーム員達の「片山さん、カートやめちゃうの??」の問いに「結婚するから...」
「でもまた乗りたいよ」と答える片山さんはどこか寂しそうだった。

 翌シーズンになると、レースの度に手伝いや応援にきてくれる片山さん。
その横顔は、「もう、乗りたくてしょうがない」という表情で、ウズウズしているのがはっきりと判った。

「そんなに乗りたいなら、お金のかからないクラスを小遣いの範囲でやればいいんじゃない??」そんな周囲の誘いにも...

「新婚だから...」と崩れそうな気持ちを必死に押さえてきた片山さん...。
きっと、奥さんの「千秋さん」もカートに賛成ではないのだろうと、周囲も勝手な想像を働かせていた...。

その年のチーム忘年会で片山さんが冗談半分につぶやいた。
「来年からまた走ろうかな!!何かいい中古車ないかな...!?」
そんな話が耳に入ると、ピリッとした表情になる千秋さん。

片山さんの復帰は難しいのかな...?と思えてきた。
 そして2002年2月。千秋さんが一人で店にやってきた。
こんな事は初めてだ。「片山さんのカート復帰をやめさせろと、ショップオーナーの俺に訴えに来たに違いない!」
俺は覚悟を決め、身構えた...。


 千秋さんが話しを始めた...。
「片山さんにカートをプレゼントしたいんです!」
「え?????」俺は拍子抜けした...。

千秋さんは、片山さんがカートをやめた事を、すごく残念に思っていたのだという。
「二人の初めての出会いもカートだし、大好きな人がやっている趣味だから、片山さんにはずっと続けていてもらいたかった...。」
と、千秋さんは胸の内を話してくれた。

 どうやら、片山さんの『気遣い』は『勘違い』だったようだ。いかにも片山さんらしい。

 千秋さんは更に話してくれた。
「片山さんがカートを処分した時から考えていたんです。私がお金を貯めて片山さんにカートをプレゼントしてあげようと...。」
「できればクリスマスにと思っていたんですが、なかなか貯まらなくて...。
それがなんとか貯まりそうだから今度の誕生日にと思って、今日相談に来たんです。」


千秋さんは14ヶ月間に渡り、片山さんに内緒で自分の小遣いから「カート貯金」を続けてきたのだ。
それが片山さんにバレないようにするのが大変だったと言う千秋さん。
「だから、片山さんがカートの話をするとつい、素っ気ない返事しかできなくて...。
きっと片山さんは『私はカート嫌い』って思い込んでると思うけど...」
 俺はものすごく感動した。
千秋さんが帰ってからも、しばらくの間「鳥肌」が治まらなかった...。
そして、自分が今まで持っていたイメージと全く違う「千秋さん」に接し、勝手に人を判断していた自分がとても恥ずかしく思えた。

奥さんに気遣い、不器用に我慢を続けた片山さん。

ダンナをびっくり喜ばせようと、1年以上「悪役??」をつとめた千秋さん。



俺はこんなに「カート屋やってて良かった」と思ったことは初めてだった。

そして、こんな嫁をもらいたいと思った出来事だった。

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